Paul Craig Roberts
2015年7月17日
“ギリシャ債務は、今やヨーロッパがこれまで進んで行おうと検討してきたものを遥かに超える負債軽減措置によってのみ、持続可能になる。”国際通貨基金
ロシアや、中国や、イランに対するギリシャの教訓は、欧米との、あらゆる金融関係を避けろということだ。欧米は決して信頼がおけないからだ。ワシントンは、他のあらゆる国々に対して、経済的・政治的覇権の確保を断固決意しており、欧米金融制度を、資産凍結、没収や、経済制裁に利用している。独自の外交政策を持っている国々や、欧米に資産を保有している国々は、ワシントンが彼らの財産権や所有権を尊重するなどとは期待できない。ワシントンは、各国の資産を凍結したり、盗み取ったりするが、フランスの場合には、ワシントンの政策に従うよう強いる為、何十億ドルの罰金を科した。例えば、単にイランが、核拡散防止条約のもとでの権利を主張してきたがゆえにイランは長年、イランGDPの約四分の一にあたる、1000億ドルの資産を利用することができなかった。
ロシア人ジャーナリスト達は、オバマがイランとの話をまとめるのに熱心だったことは、ウクライナを巡っても話がまとまる希望もあるということかと、私に質問してくる。答えはノーだ。しかも、これからご説明するが、イランとの核協議合意は、ワシントンに関する限り、たいした意味はない。
三日前(7月14日) 軍高官ポール・セルバ大将が、ここ数日間で三度目になるが、アメリカ上院で、ロシアは、“この国(アメリカ)の存続に対する脅威”だと語った。わずか数日前、上院は、ジョセフ・ダンフォード海兵隊総司令官と、空軍長官から同じセリフを聞かされていた。その数日前、アメリカ統合参謀本部議長が、ロシアの“ハイブリッドの脅威”を警告した。
ワシントンは、ウクライナを、対ロシアで利用するべく、膨大な投資をしている。ウクライナにおけるあらゆる紛争は、キエフのワシントン傀儡政権が引き起こしている。マレーシア航空機撃墜を含め、あらゆることがロシアのせいにされる。ワシントンは、ぬれぎぬを着せて、EUに、決してEUの利益にはならない対ロシア経済制裁を強要した。ワシントンは、ヨーロッパ全ての国々を、ヨーロッパとロシアとの政治的・経済的関係を損なわせることと、ロシアとの対立状態にさせる強要に成功したので、ワシントンが、ウクライナ問題の解決に同意することは決してあるまい。たとえワシントンがそうしたくとも、ワシントンは、その姿勢丸ごとが、ひたすらプロパガンダだけに依拠しているので、合意に到る為には、ワシントンは自らを否定しなければならなくなってしまうだろう。
あらゆることを差し置いて、ロシア大統領と外務大臣は、アメリカや、ワシントン傀儡のEU諸国のことを、“我々のパートナー”と言い続けている。恐らく、プーチンとラブロフは皮肉を言っているのだ。現在、最も確実なのは、ワシントンとその属国諸国はロシアのパートナーではないということだ。
アメリカの対外・軍事政策の基盤たるウォルフォウィッツ・ドクトリンは、アメリカは単独覇権国で、一方的な行動に対するいかなる制限にも我慢せず、ロシアや、他のいかなる国の勃興も認められないと宣言している。
この教義がワシントンを支配し続ける限りは、ロシアも、中国も、イランも、核協議合意をしても、安全ではない。イランが独自の外交政策をする限り、ワシントンとの、いかなる重大な政策の対立も、経済制裁の新たな正当化を生み出しかねないので、核協議がイランを守るわけではないのだ。
イランとの核協議合意で、欧米の口座に凍結されていたイランの1000億ドルが解除される。私は昨日、外交問題評議会のあるメンバーが、イランは凍結解除された1000億ドルを、アメリカとヨーロッパの企業に投資すべきだと言うのを聞いた。もしイランがそうすれば、イラン政府は自ら将来脅迫される立場におくことになる。欧米のどこかに投資をすれば、イランの資産が、いつでも凍結されたり没収されたりしかねないことを意味する。
もしオバマが、ビクトリア・ヌーランドや、スーザン・ライスや、サマンサ・パワーを首にして、こうしたネオコン連中を、正気の外交官に置き換えれば、見込みは向上するだろう。そうなれば、ロシア、中国や、イランにも、隷属以外の条件で、アメリカと話し合いをつけられるより良い可能性がもたらされる。
ロシアと中国は、うまく機能していない共産主義経済体制から出現したのだから、欧米を手本と見なすのは当然だ。中国は、すっかり欧米資本主義に夢中になっているように見える。ロシアは恐らく、それほどではないが、この両国の経済学者連中は、欧米のネオリベラル経済学者と同じで、つまり彼等は気がつかないまま、欧米の金融帝国主義の召し使いになっている。自分達は経済学に忠実であると誤解しながら、彼等はワシントンの覇権に忠実なのだ。
クリントン政権から始まった規制緩和で、欧米資本主義は、社会的に機能不全に陥った。アメリカでも、西欧到るところでも、資本主義は、もはや人々の為には機能していない。資本主義は、資本所有者と、経営者連中以外の誰の為にもならない。
アメリカの所得不平等が、今や、1920年代の“泥棒男爵”時代と同等、あるいはそれ以下である理由はこれだ。資本主義を、機能する経済体制にしていた1930年代の規制は、撤廃されてしまった。現在、欧米世界において、資本主義は略奪の仕組みだ。資本主義は、労働を略奪するのみならず、資本主義は、EUによって、ギリシャ国有財産を、外国の買い手に売却を強いられているギリシャ等、あらゆる国々を略奪する。
プーチンとラブロフは、再度“アメリカのパートナー諸国”に言及する前に、ギリシャに対し、EUに善意が欠けていたことをよく考えるべきだろう。EU加盟国そのものが略奪され、同国人達によって、酷い目にあわされるのであれば、ロシアや、中国やイランが、一体どうしてよりましな扱いを期待できるだろう? もし欧米がギリシャに好意を持っていないのであれば、ロシアに対する欧米の善意など一体どこにあるだろう?
ギリシャ国民が、ヨーロッパのパートナー諸国の善意を信じ、1パーセントの不正直さを見くびっていた為に、国民投票で得た支持にもかかわらず、ギリシャ政府は、EUへの屈伏を強いられた。ギリシャ政府は、同胞EU加盟各国政府の容赦ない態度を予期していなかった。ギリシャ政府は実際、ギリシャの債務状態と経済に関するギリシャ専門家の分析は、交渉で大きな重みを持つだろうと考えていた。この期待から、ギリシャ政府には代替策がなかったのだ。ギリシャ政府は、ユーロを離脱する方法や、ユーロから独立した通貨制度や、金融制度を導入する方法を考えていなかった。離脱する為の準備がなかったので、ギリシャ政府には、EUの要求以外の選択肢がなかったのだ。
ギリシャの財政主権終焉が、イタリア、スペインや、ポルトガル、そして最終的には、フランスとドイツを待ち受けている。元欧州中央銀行総裁のジャン=クロード・トリシェが言った通り、公的債務危機は、ヨーロッパも“独立国家という厳格な概念”を越えるべき頃合いであることを示唆している。ヨーロッパ集権化の次のステップは、政治的集権化だ。ギリシャ債務危機は、EU加盟国となることは、その国か主権を失うことを意味するという原則を確立する為に利用されているのだ。
欧米の経済マスコミで広まっている、ギリシャ国民に解決策が与えられたという考えは、ばかげている。何一つ解決していない。ギリシャ政府が屈伏させられた条件は、債務を一層支払い困難にする。近いうちに、問題は再燃するだろう。1936年に、ジョン・メイナード・ケインズが明らかにした通り、そして経済学者なら全員知っている通り、年金や、雇用、賃金や社会福祉を削減して、消費者所得を押し下げれば、消費需要も、投資需要も低減し、GDPも減少し、大規模財政赤字をもたらす結果となり、借り入れで補わねばならなくなる。公共財産を外国人に売れば、収入の流れは、ギリシャ経済の外部、外国へと変わってしまう。
21世紀に、規制されないむき出しの資本主義では、欧米のどこにおいても経済成長を実現できないことが証明された。結果的に、世帯平均所得は低下しつつある。政府は、この低下を、インフレを過小評価し、職が見つけられずに、職探しをあきらめた、無職の求職意欲喪失労働者を勘定に入れないことで隠蔽しているのだ。求職意欲喪失労働者を勘定に入れないことで、アメリカは、5.2パーセント失業率という報告ができている。求職意欲喪失労働者を数に加えると、失業率は、23.1パーセントになる。23パーセントもの失業率は、景気回復とは何の関係もない。
欧米で使われている言葉自体さえ欺まん的だ。ギリシャ“緊急救済”は、ギリシャを救済するわけではない。緊急救済は、ギリシャ債務保有者を救済する。こうした保有者の多くは、元々のギリシャ債権者ではない。“緊急救済”がしているのは、ギリシャ債務に賭けた、ニューヨークのヘッジ・ファンドに返済させることだ。緊急救済の資金は、ギリシャには入らず、債務が支払われることを予想して投機した連中の手に入る。ニュース報道によれば、ECBによる量的緩和が、融資をして経営難に陥っている銀行からギリシャ債務を購入するのに利用されており、債務問題は、もはや債権者問題ではなくなった。
中国は、アメリカに投資することのリスクに気付いていない様に見える。中国のニュー・リッチ連中は、ワシントンが日本と戦争していた時代、収容所に追いやられた日系アメリカ人の経験を忘れて、カリフォルニア州で、住宅地を買い占めている。中国企業は、アメリカ企業や、アメリカの鉱床を購入している。こうした買収によって、中国は、外交政策の違いを巡る脅迫の影響を受けやすくなってしまう。
欧米で喧伝されている“グローバリズム”は、ワシントンの単独覇権主義と矛盾する。欧米体制内に資産を保有するどの国も、ワシントンと食い違う政策を実施することができなくなる。フランスの銀行は、代替策が、アメリカ合州国における事業の閉鎖なので、融資手続きに対するワシントンの命令に従わなかったかどで 90億ドルの罰金を支払った。フランス政府は、フランスの銀行がワシントンによって略奪されるのを、守ることができなかった。
これは、グローバリズムと、単独覇権主義のアメリカとの明確な矛盾が看過されたままでいる現代の無頓着さの証明だ。
記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2015/07/17/greeces-lesson-russia-paul-craig-roberts/
----------
日本にとっての、ギリシャの教訓。
大本営広報の報道管制共謀の中、TPPがひたひたと進行しつつある。説明不足、憲法違反の酷さ、戦争法案どころではない。
少なくとも、宗主国の議員ですら、許可を得て、TPP草稿文書を見ても、その内容を人に語れば処罰される。属国の議員は、内容を見ることさえできない。それで、可決される。理不尽も甚だしい。
素晴らしい内容の法律であれば、隠す必要は皆無。途方もない反民主的なデタラメ略奪条約だから隠すのだ。
たまにもれでる米の輸入量交渉についても、一方的な敗北でしかあるまい。
世界最大・最悪のテロ略奪宗主国と、世界最大の属国が交渉して、勝てるわけがない。服従する官僚・政治家・学者・労組幹部・洗脳機関員しか生き残れない仕組みが70年の占領で完成している。
ギリシャ国民と同じような、いやそれ以上の?真っ暗な将来が日本の庶民を待ち受けている。「知らぬが仏」ならぬ「知らぬはお陀仏」。
施 光恒著『英語化は愚民化』(集英社新書)を読んでいる。
文部破壊省の教育政策、とりわけ英語政策のでたらめさ、驚くべきもの。
そこで、多くのまともな英語学者・教師の方々が多数の反論を書いておられる。
最近では永井忠孝著『英語の害毒』(新潮新書)を読んだばかり。
『英語の害毒』藤永茂氏の『アメリカ・インデアン悲史』を思い出しながら拝読した。
『英語の害毒』では、インデアンではなく、エスキモーの人々が、エスキモー語を捨てて、英語を受け入れた後の悲惨な様子が書かれている。
インデアンや、エスキモーは人ごとであれば、それまでのこと、かも知れない。
決してそういう甘い話ではすまない。
今、同じことが、日本でおこされようとしている。
ということで、とうとう政治学者が『英語化は愚民化』という本を書かれたのだろう。
『英語の害毒』でも、TPPに触れられていた。
『新世紀のビッグブラザーへ』に『英語化は愚民化』の詳しい書評がある。
英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる